矯正歯科治療に伴う一般的なリスクと副作用について

むし歯・歯肉炎・歯周病

矯正中は装置によってブラッシングがしにくくなることがあります。ブラッシングが上手くできないと、虫歯ができる、もしくは悪化する場合があり、また歯肉炎や歯周病も進行する場合があります。そのため矯正治療を開始する前にまず歯磨きの練習をしたり、むし歯や歯周病の治療を行っておく必要があります。

治療中にむし歯や歯肉炎、歯周病が認められると、状態によっては矯正歯科治療中でも器具を一度外して治療に行って頂く場合があります。特に歯が重なっている様な不正咬合では、矯正治療が進んでくると歯と歯が離れて来るので、歯の間のむし歯が直視できるようになり、ようやくむし歯治療が出来るようになることもあります。その場合も一旦矯正装置を外してかかりつけの一般歯科医院などへ治療に行って頂きます。
きれいな歯や歯周組織で矯正治療を終えて頂くために、十分なブラッシングをしてリスクを抑えましょう。PMTCといった専門的なクリーニングやフッ素塗布をお勧めする場合もあります。

抜歯・麻酔について

歯列内に歯を並べる十分なスペースがない場合は、抜歯を必要とする場合もあります。その場合は永久歯であっても抜歯して配列の為に利用する、いわゆる“便宜抜歯”を行うことになります。歯の数を減らすことになりますので、出来るだけ役割の少ない歯や形態不良な歯、神経を取る治療を行った失活歯などを選択して抜歯をお勧めします。抜歯をすることによって歯並びだけでなく、口唇閉鎖不全や口元の引き締まり感、側貌ラインなどが向上する効果が期待できるのですが、十分な説明を行い、患者様に納得して頂いてから抜歯するか否かを決定しています。

抜歯する場合は麻酔注射が必要になります。麻酔薬の成分には心拍数、血圧を上げる作用があるものもあるため、動悸、血圧上昇を起こし危険な状態を引き起こす可能性もあります。麻酔をするのが初めての方、心臓病や高血圧その他疾患がある方は特に、必ず事前にお申し出ください。また麻酔が効いている間は頬を噛んでも痛みが無く、熱いものを飲んでも感じないため口腔内を傷つけるリスクがあります。麻酔によって気分が不快になったりアレルギー反応が起こることもありますので体調不良時の麻酔の使用はお勧めできません。

矯正歯科治療中の不快感や痛み

  • 矯正装置を装着した直後や、マルチブラケット装置の調整直後には違和感や痛みを感じることがあります。これは慣れとともに無くなりますが、3日から1週間程かかることが多いです。
  • 治療中に装置が当たることで頬の内側や舌に傷がついたり、口内炎になったりすることもあります。この場合は必要に応じご自身でリリーフワックスと呼ばれる様なワックスでカバーして頂いたり、医院の方でプラスチック素材を付加して対処する場合があります。
  • 舌が無意識のうちに装置に接触しないようにするため舌がスムーズに動かせない場合があり、発音しづらいなどの症状が生じますが、だんだんと慣れる場合が多いです。
  • 固定式装置を装着した場合はそのままお食事して頂くことになりますが、くっつき易い物や硬いものは避けて頂いています。例えば、キャラメル・するめ・氷・果物の丸かじりなどは装置を壊す原因となります。

治療の進行・治療効果について

  • 歯の動き方には個人差があります。そのため診断時にお伝えした予想よりも治療期間が長くなる可能性があります。治療中の成長変化等により、最初にお伝えしていなかった装置を追加で使用したり、外科矯正に移行する様お勧めする場合もあります。
  • 取り外し式の装置の使用状況、ご自身で使用いただく顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者様のご協力が非常に重要であり、それらが治療結果や治療期間に大きく影響しますことをご理解下さい。
  • 硬い骨の中で歯を移動させることにより、歯根が吸収してやや短くなることがあります。また歯肉がやせて下がることがあります。
  • 歯並びや咬合状態に悪影響を与える日常の習癖がありますと、治療の進行が妨げられたり、目標通りの治療結果に到らない場合があります。頬杖や睡眠時体癖、上下口唇を巻き込む弄唇癖などがあると歯への負荷過重となり、歯根吸収・歯頸退縮などの後遺症となって残ることもあります。
  • 固定式の装置であっても、食事時に装置が外れて誤飲してしまう事があります。たいていは小さな装置のため健康の支障にはならない程度であることが多いですが、ご心配な場合は病院にてレントゲンを撮って頂く必要が生じることもあります。
  • ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。その場合は治療方針の変更が必要となる場合があります。
  • ごくまれに歯を動かすことで歯の神経に負荷がかかり、壊死することがあります。その場合はその歯の神経を取る治療を受けて頂くことが必要になります。
  • マルチブラケット装置の治療中、又は治療が終わって装置を外す際、除去時の衝撃でエナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。 特にブラケットに硬い審美性ブラケット・・例えばセラミックやジルコニア製のものを使用した場合は起こり易くなります。

治療終了後の変化等について

  • 矯正後は、歯が元に戻ろうとするための後戻りや、新たな不正咬合が生じる場合があります。
  • 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。
  • 治療後に親知らずが生えて、叢生(歯のガタガタ並び)が生じて来る可能性があります。
  • 装置が外れた後、以前の被せ物が新しい咬み合わせに合わなくなる場合があります。そのため新しいかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物) などをお勧めする可能性があります。
  • 治療後の顎の成長発育により、咬み合わせや歯並びが変化する可能性があります。

金属アレルギー

矯正装置にはさまざまな金属を用いているため、装置を装着してから金属アレルギーで湿疹などが生ずる方がおられます。その場合は皮膚科でパッチテストをうけて頂き、アレルギー材料を特定する必要があります。

アレルギーを引き起こしている材料を使用しない別の装置を使って頂く事で支障なく最後まで矯正治療を受けて頂くことができますし、金属を使用しない矯正歯科治療方法も選択にあります。 金属アレルギーのある方やご心配な方は、治療前にお申し出ください。

顎関節症について

矯正治療を開始するにあたり顎関節症状の既往や状態をお聞きし精査しておりますが、治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などが生じることがあります。場合によっては矯正力のかけ方を替えたり、治療を一旦休止する場合などがあります。また矯正治療を終了しても、顎関節音などの症状が残ってしまう可能性があります。

その他

  • 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは大変難しくなりますのでご注意ください。
  • 諸々の問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
  • 治療中や治療後、歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。